今日の自分はやっぱりおかしい。
 視界がぼやける。

 ──なぜそんなひどい顔をしているの?

 その問いは、口にしようとしても上手く出てこなかった。
 ヒューヒューと喉が鳴る。
 大切な友よ。さあ、笑って。
 今日はタイタリア国民が盛大に祝うべき、喜ばしい日。
 未来の国王の、生涯の伴侶が決まったのだから。

 サリーシャは力なく口の端を上げた。

 ──もうこんな茶番はおしまいにしましょう。

 サリーシャはフィリップ殿下を射止めるためだけに、この世界に迎えられた。しかし、サリーシャにとってのフィリップ殿下は騙すには優しすぎる、大切な友人だった。そして、サリーシャもこの役目を負えるほどの、完璧な役者にはなれなかった。
 フィリップ殿下がサリーシャではない人を選んでくれたことに、サリーシャ自身が一番ホッとしていた。