「馬に相乗りで出かけたと言っていたわね」

 サリーシャはじっとその刺繍の軍馬を見つめた。
 相乗りした馬はセシリオのデオだろうか。どんな状況で相乗りしたのだろう。それを思うと急速にもやもやしたものが胸に広がっていく。昔のことをぶり返しても仕方がないことはわかっている。それなのに、嫉妬せずにはいられない自分がいた。

「親戚ではないと思うし、どういうご関係なのかしら?」

 親しげに昔話をする三人の様子を思い返し、サリーシャは一抹の寂しさを感じた。


***


 翌日は前日とはうって代わり、朝からしとしとと降り続く陰雨だった。

 朝食を終えたサリーシャが部屋に戻り窓から外を覗くと、外はぼんやりと白く霞んでいた。いつもならはっきり見える領主館を取り囲む高い塀も、今日は少しぼやけている。すぐ斜め下に見える馬車寄せの地面には水溜まりができており、降り続く雨粒が水面をしきりに揺らしているのが見えた。