聞き間違えかと思い、サリーシャは絶句したままマリアンネをまじまじと見つめた。マリアンネはにこにこと笑顔を浮かべている。

 サリーシャはその時、にっこりと微笑むマリアンネから明確な悪意を感じとった。サリーシャがフィリップ殿下とエレナを庇って背中に重傷を負った時、マリアンネはサリーシャ同様に王太子妃候補としてその場にいた。サリーシャが背中に醜い傷を負っていることを知らぬはずがないのだ。

「俺はサリーシャにはこのような控えめなデザインの方が似合うと思うが」

 青ざめて何も答えられないサリーシャの横から、セシリオが口を挟んだ。そして、サリーシャの方を向いて目が合うと優しく微笑んだ。

「それに、美しい肌を晒してはあらぬ虫が寄ってこないとも限らない。きみの肌を直接見るのは俺だけでいい」
「そうだな。舞踏会会場で怪我人を出さないためにも、俺もそれがいい思うぜ。お嬢様はできるだけ肌を隠した方がいい」

 正面に座るモーリスも納得したように頷くと、ニヤリと笑った。マリアンネは一瞬だけ顔を顰めたが、すぐに何事もなかったかのようににっこりと微笑んだ。

「まあ。これはセシリオ様のお好みでしたのね。わたくしったら何も知らずに、失礼を申し上げました」
「いえ、お気になさらずに……」