晩餐室に入ったサリーシャは、部屋の中を見渡した。幅五メートル、奥行き十メートルほどの部屋の中には、中央に長細い形をした木製の重厚なダイニングテーブルが置かれ、その周りには椅子が十脚置かれていた。マオーニ伯爵邸にもあった接客用ダイニングルームとよく似た造りだ。
 部屋の両隅にはプレートアーマーの飾り鎧が一領ずつ置かれており、壁には馬に乗って剣を掲げる軍人達のタペストリーが飾られていた。そして、テーブルの中央には大きな装花が飾られており、室内を華やかに彩っている。

 サリーシャ達が部屋に入りしばらくすると、廊下をカツカツと鳴らす足音が聞こえた。徐々にその足音が近付き、間もなく開いたドアの向こうからマリアンネが現れる。

「ごきげんよう、セシリオ様、モーリス」
 
 マリアンネは部屋に入るなり、眩いばかりの笑みを浮かべて完全なる淑女の礼をした。
 サリーシャはその姿を見て少なからず驚いた。サリーシャも今夜は少しお洒落をしてきたが、マリアンネの衣装はその比ではなかった。王都で流行していたオフショルダーのシルク製の黄色いドレスは、たっぷりとレース飾りが施され、随所にクリスタルが縫い付けられていた。マリアンネの動きに合わせてそれらがキラキラと幻想的に輝きを放つのだ。
 胸元と耳に飾られているのはダイヤモンドだろうか。透き通った石は、上から吊るされた小さなシャンデリアの光を受けて圧倒的な存在感を放っている。
 そして、しっかりと施された化粧は一切の隙がなく、髪もまるで王宮の舞踏会に行くが如く美しく結われていた。