『せっかくきみにもらったのだから、洗って使う』

 あの時、ハンカチを握りしめて離そうとしないサリーシャを見下ろして、セシリオは困ったように眉尻を下げ、そう言った。しかし、

『いいえ。これはもう土で汚れておりますし、わたくしの尻に敷いたものを閣下に使わせるわけにはまいりません』

 と、サリーシャは返すことを断固拒否した。本当は土で汚れてなどいなかった。けれど、これはあの老人伯爵に作ったものをセシリオに作ったと嘘を言って渡したものだから、どうしても返して欲しかったのだ。そして、今度こそ本当にセシリオのために作ったハンカチを渡したかった。

「セシリオ様は、喜んでくださるかしら?」

 サリーシャは黒い刺繍糸を針に通すと、仕上げのイニシャルを刺しながら、独りごちた。これを渡した時、セシリオはどんな反応を示すだろうか。あのヘーゼル色の瞳が優しく細まり、「ありがとう」と言ってくれたなら……。
 それを想像するだけでサリーシャの胸は高鳴った。決してフィリップ殿下と一緒にいても感じなかったこの気持ちの名は……。

 そこまで考えると、胸の奥がきゅんとなり、自然と表情が緩む。