サリーシャは今も背中の傷のことをセシリオに隠し続けている。それを知られたとき、セシリオはこれまでどおり、あの優しい目で自分を見つめてくれるだろうか。あのヘーゼル色の瞳で軽蔑するような眼差しを浴びせられたら、自分は耐えられないかもしれない。

 大切な友とその愛する人を守るために、この身を(てい)した。後悔など絶対にしないと思っていたのに、この背中の傷さえなければ……、と思ってしまう自分にも嫌気がさす。

「サリーシャ」

 ふと呼ばれて顔を上げれば、仕事中のはずのセシリオがいた。廊下を歩いていたようで、ちょうど入り口から階段を降りてくるところだ。

「閣下。お仕事は?」
「ちょっと私室に忘れ物をしたから、取りに戻ったんだ。それで戻る途中に、きみを見かけたものだから」

 セシリオは柔らかく微笑むと、右手に持っている封筒を少し高く上げてサリーシャに見せた。白い封筒は一見するだけで上質なもので、赤い封蝋の一部が開封したせいで欠けているのが見えた。

「さっそく中庭の改造計画を練ってくれているのかな? だいぶ荒れているだろう? 俺が小さなころは、まだ母親が管理していた当時の面影があったんだが……」