外は既に薄暗い、冬の夜風は冷たい、駅前は帰宅ラッシュのサラリーマンと部活終わりの学生達で溢れていた。

学生時代もこの光景を客観的にしか見た事がない。
"楽しそうだな"と思った。
あまりジロジロ眺めていても、アブナイ人間だと思われかねないので、オレは足早に駅前を去る。

夕食は何にしようか?等考える事はない、毎日、近所のスーパーの値下げシールが貼られた弁当を買うか、コンビニで弁当を買うかの二択、自炊など出来ない不器用だ。

偶に、飲みに出る事もあるがひとりで寂しく呑んだ所でオレの非積は発散されなかった。

段々と街の喧騒は消えて行き、静かな住宅街へと戻っていった。

オレの住んでいるアパートは築5年ほどの割と新しいアパートだ。
マンションに住むことも何度か考えたが、今のアパートが住み易い。
単純に引越し作業が面倒臭いというのもあるが。

それにしても、今日も平和さん、綺麗だったナ....
そんな事を考えていると何故か、下部が異様に張っていた。

腰を引き気味にコンビニ近くの道に続く階段を下る。

張りをあらわにしないように腰を引き気味にする事に意識を取られていた。
それが災難する事になる。

バタッ!!ドサドサドサ...ゴン!!

オレは前方から来る人にぶつかってコケてしまった。
あぁ、また人に迷惑をかけてしまった。。。

頭を階段に打ってしまったようだズキズキする、なんせコンクリートだしな。

「ごめんなさい、大丈夫?」

ぶつかってしまった相手の女性が近づいてき
た。

「いや、此方こそすみません、前方不注意でした。」

頭を押さえながら女性の顔を見た。

「あれ、アンタもしかして、薫?」

そういえば、何処かで聞き覚えのある様な声だった。
だが目の前にいるのは、大人びた綺麗な女性。

いや、この人は...

「あ、も、もしかして、葉野さん?」

「やっぱりアンタ、薫じゃん!! 久しぶりだねェ」

"葉野七星"(はの なほ) 中学時代の顔馴染みだ、唯一の異性の知り合い。
会うのは実に地元の成人式以来だ。

「葉野さん、久しぶりだね...元気?」

「まぁぼちぼちってトコだね。 てかアンタ、血出てるよ!?」

後頭部がやたら生暖かいと思ってはいたが、血が出ていたのか。
ズキズキする。

「あ、いや、これは大丈夫だから...」

「いや、コレはマズイね、アタシん家ここの近くなんだ、手当てしてやるよ」

「いやそういうワケには...」

「いいから黙ってついて来いって」

あぁ二重で迷惑をかけてしまったと思うと同時に、久しぶりに人の優しさに触れた気がした。

葉野に袖を引っ張られるがままに尾いていった。 風が過ぎるたび、イイ匂いがした。

数分程で、綺麗なマンションの前に着いた。
「もう少しだから」と声をかけられながら、エレベーターが降りて来るのを待つ。

久しぶりに会って大人の魅力を醸し出した、葉野を見て、綺麗になったなと思った。
こんなに、綺麗な人に介抱されるのか。

.......


オレは葉野の住む部屋に通された、モダンな家具で揃えた部屋だった。

椅子に座る様に言われ、オレは腰を下ろした。

「まさか、アンタとこんな形で会う事になるとはね」

「ははは...」

「相変わらず暗いねェ、アンタ。でも悪いヤツじゃないのはアタシがよく知ってるよ」

「こんな根暗の?」

「もっと自信持って生きなよ」

笑みを浮かべながらオレの頭に消毒をし、包帯を巻く。

「アンタ、明日も仕事なんだろ?」

「そ、そうだよ」

「アタシもこのまま家に返す程、酷じゃない、今日は泊まっていきなよ」

「いや、そういう訳には。」

「決定事項、アタシが決めた事ッ!!」

まさか女性の家に泊まる事になるとは、そう思った。

橙色のライトが部屋を照らしていた、葉野が妙に色っぽく見えた。

頭はまだ痛かった。

「ねぇ、アンタ、ハラ減ってない?」

「....まぁ少しは...」

「普段何食ってんの?」

「コンビニ弁当か....近所のスーパーの弁当...」

「カァ〜っそんなんじゃ、健康状態サイアクってトコだ〜」

「仕方ないな〜アタシがなんか作ってやるよ」

葉野はキッチンに立ち料理を始めた。

人が作るメシを食うのなんて、いつぶりだろうか? 少なからず毎年、年末に実家に帰る時以外ほぼ、誰かの手作りのメシなんて食べる事がない。

「はい、召し上がれ」

オレの前には、白飯、味噌汁、漬物、野菜炒め が置かれた。圧倒的志向。
雰囲気からズボラなのかと思うが、案外、葉野はなんでもこなせる。

「どうアタシの作った料理は?」

「....美味しい...」

黙々と食べた、こんなメシを食べるのは本当に久しぶりだった。

「もっといい感想ないのかい?、ま、黙々と食ってるって事は、ソートー、ハラは減ってたんだな!!」

その後も談笑を交えながら夜がふけていき、いつの間にかオレは葉野の家のソファの上で眠っていた。

夜中にふと目が覚める、頭はまだ痛かった。
ズキズキ....

目の前にモヤがかかる。

「なんだ、クッソ.....」

そのまま痛みに耐えかねてオレはソファに横になりそのまま眠りに堕ちていった。



..........