「じゃあ、行ってくるわ。」

「うん、いってらっしゃい。」


健次が家を出る時、毎朝玄関で見送るようにしてる。
最初は2人でじゃれあいながら送っていたが今は毎朝の日課になってしまった。
健次も同じ気持ちなのか今日は「いってらっしゃい。」の途中でドアが閉まった。


「・・・・・・・・・・。」


あたしは部屋に戻り急いで朝食の片付けをした。


薄いグレーのジャケットに着替えナチュラルにメイクを終わらせた。
火の元の確認をして少し高いパンプスを履き家を出た。


健次とは友達の紹介で知り合った。
最初にみた健次のイメージは背の高いすらっとした人だった。
それは今もそうなんだけど、こんな淡泊な人だとは思わなかった。
夜もてっきり淡泊で、もう2年セックスレスだ。
健次も求めないし、あたしも求めない。
淡泊な関係を続けているからもちろん子供もできない。
子供は好きだけど、今の健次と子供を作ったとしても
幸せにできる気がしないからこのままでいいと思ってる。


毎日通る道を歩き、毎日同じ時間使う電車を待つ。
会社に行く道も、会社に行くまでの朝の毎日も
電車に揺られて5つ目の駅で降りるのも・・・
何も変化のない当たり前の行動になってしまった。

音楽を聞きながら電車に揺れる。
5つ目の駅で電車を降りた時いつもと違う事があった。


「・・・・・・・・・・・・。」


電車の降り口のベンチに綺麗な顔の男の子が座っていた。
バッチリと目が合い軽く会釈をされた。
あたしも思わず頭を下げたが知り合いでもないのですぐに目をそらし歩きだした。


コツコツとヒールの音が近づいてきて
「北川せんぱーい♪」
と呼ばれ振り返るとこじんまりとしたまた見慣れた顔の後輩がいた。


「みちかちゃんおはよう。」

「先輩♪おはようございますう」

にこにこ笑顔のみちかちゃん。うちの会社の中でも愛想がよく誰にでも人懐っこい女の子。


「今日も仕事頑張らなきゃねえ。」

「昨日みぃクレームの電話引いちゃってぇ、すごく怖かったんですよお」

「あ、部長に対応代ってもらってたやつ?」

「そうなんですよお!でも部長超優しくてえ!フォローも完璧でしたあ!」

「そうなの?よかったじゃんっ!」


たわいもない話をしながら会社までの道のりを歩いた。
私が働いてる会社は結構大きな会社で、多数の仕事を請け負っている。
あたしがやっている内容はコールセンターの副所長。
みちかちゃんはコールセンターのオペレーターをしている。