チュンッチュンとすずめの鳴き声がする。
朝を教えてくれる鳥よりも早起きして台所に立つ。
握ってるフライパンはもう3年使ってて、底が焦げ付いている。
「・・・・・・・・・・・・・。」
時間を置いて卵をフライパンに入れる。
半熟になるまでしばらく放置する。
焼き時間までの感覚も体に染みついてしまった。
壁にかけてる時計も引っ越してきた時から同じ場所にある。
ソファーは2ヵ月前に変えたばっかりだ。
焼きあがったハムエッグを代り映えのしないお皿に移したころには
部屋中に焼けたトーストのにおいがしてきた。
「おはよ」
「けんちゃんおはよ。」
奥の部屋から5年間見続けてる顔が顔をのぞかせた。
テーブルにハムエッグとトーストを並べエプロンを外し席についた。
無精ひげを生やした相手も眠たそうな顔をしながら目の前に座る。
「いただきます。」
「・・・・いただきます。」
2人ともめんどくさそうに朝食をとる。
食事の最中にこの人は何度あくびをしただろうか。
「・・・・・・・コーヒーは?」
「あ。ごめん。」
あたしは席を立ちおそろいのマグカップにコーヒーを入れ相手に差し出す。
「ありがと」
「いいえ。」
このスマホをいじりながら朝食を食べている相手は主人の健次。
5年前に神父様に一生添い遂げる事を伝えた人。
毎日毎日この朝食の時間を過ごす相手。
主人の事は嫌いじゃない。でも好きでもない。
「愛する」という感情は5年間の間に消えてしまった。
愛してないからと言って離れたいとも思わない。
この人はこの5年間であたしの一部になってしまったのだ。
「今日遅くなるから。晩飯いらないわ。」
「そう。」
たんたんとした会話をすませ、彼は席を立った。
朝食後の食器は汚れたまま机の上にあった。
「・・・・・・・・・・・・。」
あと何年この生活が続くんだろう。
あと何年・・・あたしの気持ちが持つんだろう・・・。