主人と好きな人。


家に帰り家事をこなす。
掃除をしている時も、晩御飯を作っている時も龍之介の
『また、何かされたら言ってきてね』っと言う言葉が浮かんで来ては
口元がにやけた。

ほとんどの料理ができた後トゥットゥルとまぬけな音がスマホから響いた。
龍之介かな?とスマホを手に取りロックを外すと健次からのラインだった。

『今日晩飯いらない。』

返事をせずにスマホの電源ボタンを1度押した。
連絡をするなら早めにしてほしかった。
朝の喧嘩をいつまでも引きづりたくなくて少し豪華にしたことを後悔した。


「はー。」


自然と大きなため息が出る。温めていたビーフシチューの火を止め再びスマホの電源ボタンを押した。
龍之介のトーク画面を開き文字を打つ。

『今日バイト何時まで?』

すぐに返信が来ると思っていなかったのでスマホを持ったままエプロンを外しソファーへ腰かけた。


「・・・・・・・・・・・・・・・。」


何も見る気にならないのにテレビをつけ、誰かもわからないお笑い芸人が映っている画面を見つめた。
画面の中の人達は笑いに溢れていたけど、あたしの目から一筋の涙がこぼれた。

出会ったころは好きで好きで仕方なかった。
それはきっと健次も同じだったはずなのに、たった5年という月日で
人の気持ちはこんなにも変わるものなんだな。
あれだけ大勢の人たちの前で神様に誓った所で、こんなにも人の気持ちは変わる。
どれだけあたしが元の2人の関係に戻りたいと願っても、
きっともう健次の心はあたしに戻ってこない。
たった5年分の愛しかなかったんだ。


トゥットゥル


手元のスマホが震え、ロックを外し画面を見た。


『今日は12時までだよ!ゆかさん夜ご飯何食べたー?』

『今日はビーフシチューだよ』

『えぇーいいなぁ!食べたーい!!』

『食べる?』


あたしがたった4文字の返信をしたあと、『龍之介』からの着信が鳴った。


「もしもし?」

「もしもーし!ゆかさーん!」

「聞こえてるよ」

「今丁度休憩中なの!なに?ビーフシチュー食べさせてくれるの?」

「いいよ」

「でも流石に家には行けないよね?」

「うーん。じゃあ駅まで持って行くよ」

「えーいいの?!やった!!」


電話先の龍之介の声が弾んでいた。彼の休憩時間が終わるまで
あたしたちはくだらない話をし続けた。
さっきまで泣くぐらい悲しい気持ちだったのに。人はこんなにも開き直れるのか。
待ち合わせの場所と時間を決め電話を切った。
家に招いたところで健次は居ないし、どうせすぐには帰ってこないけど
健次との思い出の部屋に彼を入れない事が
あたしなりの最後の愛情だった。