こうして無事に家に戻って来れたことで安心しやっと緊張が取れたのか、琴は着替えを済ませるとそのままリビングのソファーへと疲れた身体を投げ出してしまう。
そんな琴の目の前に差し出されたマグカップ、どうやら加瀬が疲れた彼女へとホットミルクを用意してくれたらしい。
「ありがとうございます、志翔さん」
「それを飲んだら早めに風呂を済ませて休んだ方が良いだろう、俺も今日は疲れたしな……」
加瀬は琴の所為ではないとタクシーの中でも何度も言ってくれたが、それでも申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまう。
自分が加瀬に隠し事をしていなければ……もっとルカに気を付けていれば、今日の出来事は起こらずに済んだのではないかとそればかりを考えてしまうのだ。今になって後悔しても、どうにもならないと琴だって頭では分かっているのに。
夫である加瀬を喜ばせるどころか、こうして迷惑をかけてしまう事が凄く苦しくて。
「今夜はずっと俺が琴の傍にいるから、もう余計な事は考えるな」
「はい……」
そんな琴の胸の内を分かっているのだろう、加瀬は普段よりも優しく彼女にそう言い聞かせる。
いつもより柔らかな彼の笑みをソファーに座った状態のまま見上げていると、琴の朧げな記憶の中にある少年の笑顔が一瞬だけ重なった気がして……