病院から自宅へと帰るタクシーの中、琴は今日あった出来事を頭の中で整理していた。催眠をかけられた状態であったが、加瀬とルカがどんなやり取りをしていたのかを微かに覚えている。
その中でも彼女が気になっている加瀬のある一言、あれはいったいどういう意味だろうかと考えずにはいられなくて。
「琴、どうかしたのか? もしもどこか具合でも悪いのならば、近くで停車してもらえるよう頼もうか?」
「……あ、いいえ。少し考え事をしていただけで、どこか悪いとかいうわけではないんです」
本当は今すぐにでも加瀬に詳しく聞きたかったが、まずは家に帰ってその後にお互いが落ち着いてから話をした方が良いはずだ。そう考えて、琴はもう少しだけと逸る気持ちを抑えていた。
だけど琴は隣に座る加瀬の横顔をそっと盗み見てしまう。少しくらいはあの時の面影が有るかもしれない、と無意識に探してしまっていて……いつの間にか、またぼんやりとしてしまっていたらしい。
「着いたぞ、自分で降りれるか?」
「は、はい! 大丈夫です、一人で降りれますから」
支払いを済ませた加瀬が先に車外に出ると、それに続いて琴もタクシーから降りる。何となくその場所から走り去っていくタクシーを見ていたが、玄関のドアを開けて待っていた加瀬に呼ばれて琴は慌てて家の中へと入った。