「こっちよ、ついて来て」

 着替えを終えた加瀬(かせ)が部屋から出ると、廊下で待っていたジュリアが彼について来るように言いそのまま建物の奥に向かって歩きだす。
 そんなマーメイドラインのドレスの裾が揺れるのを見ながら、加瀬はずっと考えていた。
 どうして今頃になって、こんな風に(こと)まで巻き込むような真似をするのか? 今までのように自分だけにその敵対心を向けないのかと。

「アイツの目的はいったい何だ? それはアンタが協力する価値のあるような事なのか」
「……余計なことを話す気はないわ、おしゃべりな男は好みじゃないの」

 ジュリアは加瀬に余計な情報を与える気はなさそうだ。彼の問いかけに振り向きもせずに答えて、しきりにスマホの画面を確認しているように見える。
 やがて廊下の突き当り、大きな扉の前まで来たところでジュリアの歩みが止まった。この扉の向こうが、目的の場所なのだろう。
 しかし彼女はまだスマホの画面を見つめたまま、扉を開こうとはしない。琴の事が心配でたまらない加瀬はそんなジュリアの様子にだんだん焦れてくる。

「開けないのか? いつまで俺を待たせるつもりなんだか……」
「少しくらいは大人しく待っていられないの、せっかちな男は嫌われるわよ?」

 そう言い返されて加瀬は黙り込む、琴が気がかりで冷静さを欠いていいる自覚はあったためだ。そんな彼を一瞥した後、ジュリアは微かに震えたスマホを確認し扉に手をかけた。

「貴方を迎える準備が出来たみたいよ。それじゃあ、行きましょうか」
「……ああ」