習い事の講師と生徒の関係だ、そうそう関わることは無いだろうと琴は思っていたのだが。何故かルカはことあるごとに彼女に話しかけてきた。
「こんにちは、琴。もうこの教室には慣れましたか? 困ったことがあればいつでも私を頼ってくださいね」
「は、はい。わざわざありがとうございます」
隣にいるジュリアはそんなルカを胡散臭そうなものでも見るような目で見ている。確か彼女は彼を気に入っていると聞いたような気がするが、琴はそれについては黙っておく。
それにしても、こんな事が加瀬に知られたら彼はどんな顔をするだろう? もしかしたらそんな習い事は辞めろと言われるかもしれない、そう考えると黙っておくしかないのだが。
しかし……
「ハイ、琴。ここの部分はもっと……そう、私のやり方をよく見てて?」
「ええと、はい」
講義中であろうがなかろうが、ルカは何かと琴の傍に来て話しかけてくる。それもかなり近い距離で、それが彼女を戸惑わせた。
嫌だとなかなか言うことが出来ない琴を見かねて、何度もジュリアが助け舟を出してくれるほどには。
「随分気に入られちゃったみたいねえ、ルカ先生って普段はあそこまで露骨じゃないんだけど」
「そうなんですか? ジュリさん、いつも助けてくれてありがとうございます」
そう頭を下げる琴にジュリアは「いいの、いいの」と笑って答える。それでも他の生徒もこの状況に少し不満を感じてるようで、琴を見る周りの目は少し冷たい。