(こと)はソファーで寛いでいる加瀬(かせ)に文句を言うが、小柄な彼女が両手を上げて怒っても彼は怖くもなんとも無いだろう。それどころかそんな琴に手を伸ばすと、座ったままの体勢でそのまま抱き寄せてしまう。

「きゃあ! ちょっと、志翔(ゆきと)さん!」
「はいはい、そんなに怒るな。琴のそういう顔も嫌いじゃないが、せっかく二人きりなんだからもっと甘えた可愛い顔が見たい」
「また、そういうことばっかり……」

 仕事を終えて帰ってきて風呂を済ませた加瀬は、そうやって琴を蕩けさせるよな言葉で誘惑してくる。今だ身体は繋げてないというのに、こうした夫婦としてのスキンシップは少なくない。
 琴の思考を奪うようなとびきり甘いキスにも、優しく頬に触れる指先などの全てに加瀬の深い愛情を感じて。
 そんな彼の態度に、琴はふと思い出したように問いかける。

「ねえ志翔さん、最初は私にあんなにきつい言い方ばかりしてたの何故ですか?」
「ああ、それは琴が……」

 何かを言いかけて加瀬はしまったという表情を見せ口を噤んでしまう。そのうえ彼が気まずそうに視線を逸らすから、余計に琴もその理由が気になって。

「今、何か言いかけましたよね? 私が何なんですか、教えてください」
「あー、別に大したことじゃない。それよりも……」

 あからさまに話を逸らそうとする加瀬の様子に、琴はショックを受けた。もしかして自分が悪いのかもしれない、彼女がそう考えてしまうのは今まで継母や義姉に繰り返し責められ続けてきたせいだろう。

「……おい、琴?」