「……え、先に寝ちゃうんですか?」
やっと想い合えたばかりだというのに、加瀬は明日の仕事が早いからとさっさと寝室へと向かっていく。何度も同じベッドで眠っているとはいえ、今夜は特別な意味を持つのではないかと思っていた琴はその呆気ない反応に逆に驚かされてしまう。
もう少し両想いの甘い余韻に浸りたかった彼女としては少し不満で、何となく加瀬の後を追って寝室へと入ってしまった。後ちょっとでいいから甘えさせて欲しい、そんな風に思えたのは彼がどんな琴も受け入れてくれるからだろうか。
そんな自分の感情にむず痒さを覚えながら、琴がベッドに横になった加瀬に話しかけると……
「スー、スー……」
「え、また?」
初夜の日もこうやって加瀬は先に眠ってしまったのだが、まさか今日も? 緊張しているとはいえ琴だってそれなりに覚悟はしていたのに。
雨の中、琴を探して走り回った彼が疲れているのは分かるがそれでもあんまりではないだろうか? 自分はとても大事にされているのに、こちらが志翔の為に出来ている事は何もないのかと琴は考えこむ。
「そうだ。出来なければ、出来るようになればいいのよ」
文化が違う、言葉が通じない。そんなことに怯えてなかなか外に出る勇気が出なかった琴だったが、何かを一大決心したようで軽い足取りでリビングへと戻っていく。
そんな彼女の後ろ姿を見て、寝たふりをしていた加瀬が笑いを噛み殺している事にも全く気付かないで。