「ん、んう……?」
優しい囁きが聞こえたような気がして、琴はゆっくりと目を覚ました。左右を確認するがそこはいつもの寝室で、自分以外は誰も見当たらない。
いつの間に眠ったのか、窓の外はもう茜色に染まっている。ソファーに横になったのは覚えているがここはベッドの上、彼女をここまで運んでくれる人物は一人しかいない。
琴は慌ててベッドから降りると、リビングへとつながるドアを開けた。
「志翔さん、ごめんなさい私……!」
「ああ、起きたのか。疲れていたんだろう、よく眠れたか?」
加瀬は簡易テーブルにパソコンを置いて、ソファーに座ったまま何か作業をしている。
しかもテーブルにはすでに食事が準備されているようで、何もせずにぐうぐうと眠ってしまっていた琴は申し訳ない気持ちになった。
「はい、とてもよく眠れました。ベッドまで運んでもらってすみません、重かったですよね」
「俺に重いと言わせたいのなら、もう少し食べる量を増やしたほうがいい。その方が抱き心地もいいし」
悪い事をしたと思っている琴に加瀬はそう言って返す、冗談めかしているが半分は本気だった。抱き上げた琴の軽さは今でもはっきりと思い出せる、強く抱きしめたなら壊れてしまうのではないかと不安な気持ちになるほどだった。
それなのに、琴は違う部分に過剰に反応して真っ赤に頬を染める。
「だ、抱き心地って……!」