返事に困った(こと)が金魚のように口をパクパクさせていると、ますます加瀬(かせ)の腕の力が強くなる。こんな風に抱きしめられるのも慣れないのに、琴は反応に困って人形のように固まってしまっていた。

「俺の奥さんは初心だな、これから俺色に染めていくのが楽しみだ」

「へ、変なこと言わないでください。私は誰色にも染められませんから!」

 加瀬はそんな彼女の反応を見てクツクツと笑う、どうやら琴が加瀬の言葉にいちいち過剰に反抗するのが楽しくて仕方が無いらしい。
 自分色に染めたいのは本当だが、まだまだこういう琴の可愛らしさを堪能するのも悪くない。加瀬はそんな余裕まで見せて琴を振り回してしまう。

「……だが、ちょっと細すぎるな。ちょうどいい抱き心地になるまでしっかり食べさせないと」

「ひいっ!」

 琴の身体のラインを確かめるように動く加瀬の手に、思わず悲鳴が漏れる。今までの生活では食事を抜くことも少なくなく、琴はどちらかと言えば痩せている。加瀬はそんな彼女を心配して言ったつもりだったのだが……

「肉付きのいい女性が好みなら、私に構わなくても大丈夫ですよ! 私は加瀬さんがどんな女性と仲良くしてても全然構いませんから!」

「はあ? あんたなあ……!」

 まるで他の女性を触って来いと言わんばかりの琴のセリフに、加瀬もムッとなる。いくらなんでも結婚したばかりの夫に朝からいう言葉がそれなのか、と。
 しかし文句を言おうと加瀬が起き上がると同時にインターフォンが鳴る。加瀬と琴は思わず顔を見合わせるが、間を開けずにもう一度……