オレンジ色の夕日が差し込んでくる午後だった。わたしは病院備え付けのモップを片手に、汗みずくになりながらも掃除に励んでいた。
 わたしの名前は仁保セイラ(にほせいら)。普通……とは、あまりいえないだろう家庭の生まれだ。このキラキラした「セイラ」という名前は、お父さんがつけてくれたものだ。わたしのおばあちゃんと同じ名前らしい。
 我が家は父子家庭で、しかも小学生になる双子の弟と妹がいる。とうぜん家計は火の車で、お父さんは遅くまで家を空けている。さらに、双子の弟妹はまだ一人で家事もできない。そんなわけで、わたしは休日を返上していくつものアルバイトを掛け持ちしているというわけだ。
 清掃作業は、とにかく体力仕事だ。室内の清掃にシーツ換え、さらにトイレの清掃もあるし、道に迷った患者さんの相手もしないといけない。
 ひとくちに清掃と言っても、意外と仕事は多いのだ。落ちない靴のあとをごしごしと擦る。腰が痛くなってきたので、顔をあげて伸びをしたときだった。