『生産性て………ふはっ!』

 オリヴィアの歯に衣きせぬ言葉に、カテリーナはツボに入ったのか吐き出して笑った。

『……でも、まあそうなのよね〜。しかも、確かヒロインって孤児院出身で、実はあたしの腹違いの妹なはずなの! うちのお父様が外で作った落とし胤って訳』
『えッ! ……それ、やばくない?』

 焦るオリヴィアとミレイユに対して、カテリーナは『まぁ、平民との娘だったし。うちの父様、クズだからさぁ』と、あっけらかんと笑っている。
 カテリーナは金髪の豪奢な巻き髪に見事な紫の瞳と口元に小さなホクロを持つ、齢十四にしてかなり色気のある美人だが、なかなか豪胆な性格をしているようだ。

『今まで放置してた癖に、ヒロインが街で少年を悪漢から守る為に"聖光気(せいこうき)"を発して、神殿から直々に聖女認定されちゃった事に焦って、急いでドリュー侯爵令嬢として迎えいれるの。その後福音(ギフト)も発現して、この国で確固たる地位を築くのよ』

 カテリーナと同い年の娘がヒロインという辺りで、ドリュー卿のクズ度がとんでもなく跳ね上がる。

『そもそも、福音てなんだっけ?』
『んーと、福音については神殿の秘匿事項だったはずで、国民にはあまり知らされてないはずなのよね……一応、各自で家の図書館で調べてみて。あたしも詳しい事忘れてるからさぁ……結構、物語上重要だったはずだから、間違って教えたら困るし』

 ミレイユとオリヴィアはカテリーナの話に真剣に頷いた。

『あとさぁ、あたしもう婚約してんのよ……聖騎士総団長の長男と……つい、こないだ』
『えッッ!!!』

 聖騎士団長長男とはオリヴィアの双子の兄、ジークハルトの事だった。

『えっ、もう?! あいつ、一言もそんな事言ってなかったけど!!』
『まだ公示前だからね〜……秘密だったんじゃない?あたし、筋肉好きだからさぁ。折角、将来有望な"きんにくん"と付き合えるって思ったのにぃ! ヒドイっ!』

 カテリーナは非常に悔しそうな顔をしていた。彼女は筋肉好きだそうで、ジークとの婚約もかなり喜んでいたそうだ。

『いやぁ、前世での推しキャラだったし、うちの父様がヒョロクソ親父だから真逆の人に惹かれるというか……て、言っても今思えば顔合わせの時に見たジークもまだまだ少年!って感じだったんだけどね』
『でもさぁ、結局はヒロイン登場したら婚約者放ったらかしでジークもヒロインに惹かれる訳でしょ?クソ野郎じゃん』

 浮気男には嫌悪感しかないオリヴィアに、ミレイユも同意するようにうんうんと頷いたあと、表情に昏い影を落とし重たい口を開いた。

『実は、私も……婚約打診が来ているのです……』
『あ、宰相の息子でしょ!?』

 オリヴィアが頭に叩き込んでいる貴族名簿を探すよりも速く、カテリーナが答えた。いよいよ真実味を増してきて危機感が募る。

『……はい。二週間後に顔合わせの予定なのです。向こうは侯爵家なので、こちらからは断れないと思います……』

 しょんぼりと肩を落とすミレイユを見て、オリヴィアはずっと気になっていた事をようやく聞いた。

『あの……カテリーナ。因みに私の婚約者って……』
『決まってるじゃん、王太子のアレクセイ殿下だよ!』
『いやぁぁぁあ!!』

 そうだとは思っていたが、聞かずにはいられなかった。むしろオリヴィア自身も数時間前迄は王妃になる気満々だったのだ。

 "私以上に王妃に相応しい方? 是非連れてきてらっしゃいな! おーほっほ!"

 と、オリヴィアは本気で思っていたのだから恥ずかしい。口に出さなかった事だけが本当に救いだ。

 オリヴィアは数時間前まで、これから始まるであろう辛く険しいと噂されている王妃教育すらバッチコーイ!と気合いが入っていたのに、今からとなってはただただ時間の無駄に感じるだろう。

『……でも、一人じゃなくて本当によかった。お二人がいなかったら、私一人でどうしたら良いかわからなかったですから』

 ミレイユは、サファイアの様な美しい青い目を揺らしながらオリヴィアとカテリーナへと感謝を伝える。

 確かにそうだ。独りじゃない。一年もあれば、多少対策も練れるだろう。

『私も……二人がいて、すっごく心強い』
『あたしもっ! 一人だと絶対ヘマしそうだし……」

 三人で手を取り合い、今後に向けて決意を新たにした。

(あっ! ……そういえば、あともう一つ肝心な事を聞いてなかった)

 オリヴィアは、おそるおそるカテリーナに尋ねる。

『……ねぇ。悪役令嬢三人は、最後どうなるの?』

 カテリーナは一瞬言うのを躊躇うも、深呼吸して気持ちを落ち着けた。

『……あたし達は、修道院か国外追放。最悪……死ぬ』