「登一くん! あのサメ、すごく大きい!」

 佳煉ちゃんが指差した先で、優雅に通り過ぎていくサメ。


「ほんとだ」

 確かに他の個体よりも大きい。


「お魚の大群も綺麗だねぇ」

 佳煉ちゃんは同じ水槽で泳ぐイワシに視線を移し、それらを爛爛とした目で見つめている。


 ここを選んでよかった。

 僕は彼女の横顔を眩く感じながらそう思った。


 水族館というチョイスは僕の趣味だ。

 彼女と僕では、本の好みも、音楽の好みも全然違う。

 見た目の雰囲気だって似ていない。

 だから、もしかしたら別の、僕が好まないような場所の方が彼女は喜ぶのではないかという気持ちもあった。


 けれども、自分の好きな場所で好きな人といられる。こんな幸福を知れてよかった。

 今はそんな風に思う。