短編『ラブミー、秋津くん』



 まさか、秋津くんがうちに来るの?


 どうしよう。

 そわそわしてしまう。


 散らかってはいないけれど、掃除した方がいいかな。

 慌ててあちこちを拭いて回る。


 それが一段落した頃、グラスに氷を入れっぱなしにしていたことを思い出した。

 見ると少し解けて角が丸くなっている。

 そこにコーヒーをなみなみ注ぎ入れたところで、ピンポーンとチャイムの音が鳴った。


「はい」

 急いでドアを開けると、頭に手刀が降ってくる。


「馬鹿。今確認せずに開けただろ」

「すみません。秋津くんだろうと思いまして……」

 思わず敬語になってしまった。


「ゲホッ」

 咳をする秋津くんをよく見ると、額に汗をかいている。

 よっぽど急いで来てくれたのだろう。


「花火、まだやってるよ。どうぞ。ベランダで一緒に見よう」

 そう言って中へ促すと、秋津くんは自分の靴を持って上がった。


「そんでもって、素直にホイホイ男を家に上げるのも、馬鹿」

 廊下でこちらへ振り返った秋津くんは、困ったように笑っている。