短編『ラブミー、秋津くん』



「あのね」

「そっち、何か聞こえない?」

 私と彼の声が被った。


「あ、花火の音かな」

「そっちだとそんなに聞こえるんだ」

「うん。ここからでも見えるよ。独りぼっちだけど、はは」

 乾いた笑い声が出てしまう。


「こういうときこそ、その好きな人とやらを誘うべきなんじゃないの」

 投げやりで、ぶっきらぼうな声だ。


 どうでもいい話に付き合わされて、うんざりしているのかもしれない。


「うん。好きな人と一緒に見たかったんだけど、最近それどころじゃないんだ。私に興味がないどころか、ちょっと避けられちゃっているかも」


 秋津くんは、何も返さない。


 沈黙が訪れる。


「見たかったなあ。秋津くんと」

 ――ガタガタッ。


 ポロッと本音が漏れ出た瞬間、スマホの受話口の向こう側から大きな音が聞こえた。