「すごく遅刻してしまったのかしら。やっぱりご迷惑だったのかも……」
無理もない。前方にいるのは、ムスッと唇を曲げ、馬の側で仁王立ちしている巨人なのだ。あの迫力を前にすれば、地獄の番人でさえも恐れをなして逃げ出してしまうに違いない。
初めてまともに対面する彼女たちには、近づくことさえ無理だろう。
ひょっとしたら、声を聞いただけで失神するかもしれない。
シルディーヌは二人に笑顔を向ける。
「ううん大丈夫。多分怒ってないと思うわ」
合同デートに駆り出されて少し不機嫌かもしれないが、あれがいつもの彼なのだ。
それでも待たせてしまっているのは事実。ペペロネたちのために少しでも表情を和らげたくて、シルディーヌはワンピースの裾をふわりと揺らして駆けだした。
どんなに『近づくなオーラ』を放っていようとも、かまわずにシルディーヌは駆け寄っていく。
その様子を、ペペロネとキャンディは身を寄せ合い心配そうに見ていた。
「アルフ、ごめんなさい。待たせちゃった?」
帽子のつばを手のひらで支えながら見上げると、唇に動きはないものの、空色の瞳が少し和らいだように見えた。
「……いや、待っていない」

