王宮侍女シルディーヌの受難2ー短篇-


 昨日のアルフレッドが放っていた殺気は黒龍殿内のみならず、正門のほうにまで届いていたという。当番の正門警備が震え、ちょうど調べていた不審人物がすぐさま逃げ出したと話した。

「……そんなに、すごかったのね?」

 たしかに、あの時の王太子殿下は『殺気を抑えてくれ』といっていた。よくよく思い出してみれば、冷汗をかいていたようにも思う。

 が、シルディーヌにはアルフレッドが放つ殺気がどんなものか体感できていないので、いまいち恐ろしさが分からない。

「敵ながらも、ガスパルはよく耐えたと言うべきだなぁ。団長も、奴には入団当初から『注意が必要な奴だ』と言っていたから、うすうす正体に気づいていたんでしょうねぇ。まったく、団長の洞察力は大したもんですよ」

 アクトラスは誇らしげな口調で話し、うんうんとうなずいている。

「じゃあ、私が食堂の出入りを禁じられていたのは、ガスパルに会わないようにするためかしら……?」

「そうでしょうねぇ。それに、新入団員たちはシルディーヌさんを気に入ってますからねぇ、自分がいない間に、手を出されないようにしたんでしょう」