「ああっ、それはもういいのです! 私、早く行かなくてはなりませんものね。あなた、玄関まで一緒に行ってくださるのでしょう! お願いしますわ」
急に態度を変えたカメリアは、フリードのほうをチラチラと見ている。
「……そうよね。急いで西宮殿に行かないといけないもの」
「私もお見送りいたします」
フリードが厳しい顔つきのまま後からついてくるから、カメリアの歩きが少しぎこちない。やはり王宮の使用人たちにとって、黒龍騎士団員はかなり怖い存在なのだ。
それでもモテてしまうのが、シルディーヌには解せない。
ペペロネたちが言っていたように、たしかに団服を着た彼らは凛々しくて素敵に見えるし、愛される特別さを感じたいというのは分からなくもない。
けれど、団員きっての気品と優しさを備えたフリードでさえ怖がっているのだ。恋をしたくても、これでは接近することもできないではないか。
──みんな、矛盾してるわ。
カメリアは規則を破ったことの恐れもあるだろうが。
「二度と宮殿を間違えたらダメよ」
「ええ、きっと、そうしますわ」
玄関で「ごきげんよう」とあいさつするカメリアの笑顔は、引きつっている。

