「このくらいで、いいかしら」

 シルディーヌはモップを動かす手を止めて、ひと仕事おえた満足感から息をついた。

 昨夜降った雨のせいで泥にまみれていた玄関ホールは、せっせと拭いたおかげで寄木細工の模様も美しくピカピカと光っている。

 玄関ホールはこれで完璧だけれど、シルディーヌには一か所だけ気になる部屋がある。

 そこはアルフレッドから出入りを禁じられているため、掃除ができない。普段でも汚れやすい場所なのに掃除ができなければ汚くなる一方なのだ。

 黒龍殿のお掃除侍女としてはどうすれば最善なのか、シルディーヌは懸命に知恵を絞る。

「シルディーヌさん、ごくろうさまです。すっかり綺麗になりましたね」

 声をかけてきたのは、黒髪に黒い団服を身に着けた黒づくめの騎士。黒龍騎士団の副団長である。

「フリードさん。アルフが戻って来たときに汚れていると、『サボっていただろう』って、怖い顔で叱られそうだもの。頑張ってお掃除しておかなくちゃ」

 黒龍の騎士団長であるアルフレッドはアクトラスの隊を率いて任務に出ているため、この三日あまり不在だ。戻ってくるのは五日後の予定である。