王宮侍女シルディーヌの受難2ー短篇-


「はい。間違えた記念と言いますか、ひと目で構いませんので、あの噂の騎士団長さまのお部屋を拝見したいなーって……ダメでしょうか?」

「は……?」

 さっきまでガタガタと震えていたのに、今は瞳が輝いている。多分、シルディーヌが一緒ならば安全だと分かったせいだろう。

 今日はアルフレッドのファンに会ってばかりだ。本人がいたらどんな反応を示すのか。

 さきのヘンリエッタに対しては、不機嫌そうに顔を歪めて、『うるさいのはアマガエルだけで十分だ』と言い、カメリアに対しては『部屋を見たいだと? 百年後に出直して来い』と言いそうである。

「それは、できないわ。部外者に見せたら叱られてしまうもの」

「でも、団長は任務でお留守なのでしょう? 言わなければ、ばれませんわ」

 ほんの数度のやり取りで、オドオドしていたうっかり侍女から、ちゃっかり侍女に変身している。

 その輝く目を見ていると、なんとなく頭がぼうっとしてくるようで、シルディーヌは目を瞑って頭を振った。

 ──寝不足だわ。

 毎晩アルフレッドを思ってしまって、寝るのが遅くなっているのだ。

「あなたも、団長に恋をしているの?」

「いいえ、私はただのミーハーですわ。噂の騎士団長が普段どんなお部屋で過ごされているのか、ちらっと見られれば、それで満足ですの。あなたは、扉を開けてくださればいいのです。そこから中を覗きますわ」