「はい。間違えた記念と言いますか、ひと目で構いませんので、あの噂の騎士団長さまのお部屋を拝見したいなーって……ダメでしょうか?」
「は……?」
さっきまでガタガタと震えていたのに、今は瞳が輝いている。多分、シルディーヌが一緒ならば安全だと分かったせいだろう。
今日はアルフレッドのファンに会ってばかりだ。本人がいたらどんな反応を示すのか。
さきのヘンリエッタに対しては、不機嫌そうに顔を歪めて、『うるさいのはアマガエルだけで十分だ』と言い、カメリアに対しては『部屋を見たいだと? 百年後に出直して来い』と言いそうである。
「それは、できないわ。部外者に見せたら叱られてしまうもの」
「でも、団長は任務でお留守なのでしょう? 言わなければ、ばれませんわ」
ほんの数度のやり取りで、オドオドしていたうっかり侍女から、ちゃっかり侍女に変身している。
その輝く目を見ていると、なんとなく頭がぼうっとしてくるようで、シルディーヌは目を瞑って頭を振った。
──寝不足だわ。
毎晩アルフレッドを思ってしまって、寝るのが遅くなっているのだ。
「あなたも、団長に恋をしているの?」
「いいえ、私はただのミーハーですわ。噂の騎士団長が普段どんなお部屋で過ごされているのか、ちらっと見られれば、それで満足ですの。あなたは、扉を開けてくださればいいのです。そこから中を覗きますわ」

