黒龍殿に勤め始めて何カ月も経てば、シルディーヌでも足音の違いが分かるようになる。聞こえてくる音は団員のそれとは違うように感じた。
──新入団員の子かしら?
鍛錬場で見た彼らは若く、剣技も未熟だったように思う。普段の身のこなしも一般人と変わりがないだろう。
そろりそろりと階段を上がり切ったその人は、モップを手にしたシルディーヌを見て驚いたようだった。
硬直している様子のその人は、シルディーヌと同じお仕着せの服を着ている。どうして侍女がここに来るのだろう。
「あっ、あなた……ひょっとして!」
ハッとしたシルディーヌが駆け寄ろうとすると、彼女は一瞬逃げるような素振りを見せるものの、困惑したような表情をしてにこっと笑う。
少しそばかすのある肌で赤毛を一つに束ねた侍女は、シルディーヌよりも二歳ほど年上っぽい。巻き毛のヘンリエッタと同年齢かもしれない。
「あ、あの私、今日から西宮殿に配属されたカメリアと申します」
「わぁ、やっぱり! おドジさんだったわ!」

