王宮侍女シルディーヌの受難2ー短篇-


 仕事の文句よりもなによりも、アルフレッドがいないのが大きな不満なのだ。ワイバーンのような顔でイジワルを言われても、声が聞けないより断然ましだ。

 心の中に深く入り込んでいる彼は、シルディーヌの人生になくてはならない存在になっている。

『俺の仕事には危険が付きまとう』

 アルフレッドの言葉が、シルディーヌの胸を締め付ける。会えない寂しさや文句もあるけれど、結局のところ、アルフレッドの身が心配なのだ。

 それが、今、分かった。

 任務なのは仕方がない。でも、鬼神と言えども王太子殿下を守って怪我をすることもあるだろう。無事に帰って来てほしいと願う。

 恋人になってから初めて経験する、アルフレッドのいない日常はかなり寂しくて辛いものだ。

 しかし、どんな気分であっても、お仕事はしなければならない。

 しょんぼりしながらモップを手にし、とぼとぼと部屋の外に出る。廊下の拭き掃除を始めたシルディーヌは、ふと異変に気付いた。

 誰かが階段を上ってくるのだ。

 団長と副団長以外は、滅多に上階にこない。けれど、フリードにしては足音が大きいと思える。