仕事の文句よりもなによりも、アルフレッドがいないのが大きな不満なのだ。ワイバーンのような顔でイジワルを言われても、声が聞けないより断然ましだ。
心の中に深く入り込んでいる彼は、シルディーヌの人生になくてはならない存在になっている。
『俺の仕事には危険が付きまとう』
アルフレッドの言葉が、シルディーヌの胸を締め付ける。会えない寂しさや文句もあるけれど、結局のところ、アルフレッドの身が心配なのだ。
それが、今、分かった。
任務なのは仕方がない。でも、鬼神と言えども王太子殿下を守って怪我をすることもあるだろう。無事に帰って来てほしいと願う。
恋人になってから初めて経験する、アルフレッドのいない日常はかなり寂しくて辛いものだ。
しかし、どんな気分であっても、お仕事はしなければならない。
しょんぼりしながらモップを手にし、とぼとぼと部屋の外に出る。廊下の拭き掃除を始めたシルディーヌは、ふと異変に気付いた。
誰かが階段を上ってくるのだ。
団長と副団長以外は、滅多に上階にこない。けれど、フリードにしては足音が大きいと思える。

