王宮侍女シルディーヌの受難2ー短篇-


 できることなら、本当に代わってほしいと願う。

「そ、そんなっ、それを、全部、ひとりでこなすなんて……! やはりあなたのような、田舎の令嬢のほうが向いていますのね。わたくしのように、気品ある都会の令嬢のお仕事じゃないですわ。そうよ、仕事と恋愛は別ですものね! そのことが、よく分かりましたわ!」

 このお話はなかったことに! と逃げるように去っていくヘンリエッタを複雑な気持ちで眺めた。

「やっぱり、逃げるわよね?」

 掃除三昧な日々と、かさかさ動く黒いアイツに遭遇する恐ろしさは、アルフレッドへの恋慕よりも大きいのだ。

 幼い頃、アルフレッドにイジワルされて、野山を追いかけられたシルディーヌは、ある意味鍛えられているのかもしれない。

 喜ぶべきか、悲しむべきか。

「悲しむべきだわ。私だって、平気じゃないもの」

 シルディーヌが大変な仕事をする羽目になったのは、多分にアルフレッドのせいである。

 まあ、最初に西宮殿と間違えたのが悪いと言われればそれまでだが、それでも! と拳を握る。