「掃除に明け暮れて、団長のお世話は皆無です。執務室に入ろうとしても、スパイ扱いされて追い出されてしまうわ。いえ、命の危機を感じるかも……」
鬼神の団長に剣を向けられたのだ。
幼馴染みのシルディーヌでさえ恐ろしかったのだから、ご令嬢のヘンリエッタでは腰を抜かしてしまうだろう。泡を吹いて失神することもあり得る。
「そっ、それは、本当ですの?」
「ええ、むさくるしい男性ばかりの宮殿は、臭いも汚れも酷いんです。特に今は食堂が危険だわ。害虫がウヨウヨしているかも……あなたが代わってくださるなら、とても嬉しいけれど」
アルフレッドのいない隙にサクッと交代することもできようが、帰国してきた彼の怒りの形相が思いやられる。
シルディーヌと喧嘩しただけで、宮殿の空気が暗黒に染まりかけたのだ。いなくなったら、どうなるのだろう。見てみたい気もするが、フリードやアクトラスが真っ青になるのは気の毒だ。
「多分無理だと思います……」
団員たちが片づけを徹底しても、きっと完璧にはできないだろう。シルディーヌはアルフレッド帰還後の食堂清掃を思いやり、遠い目をした。

