王宮侍女シルディーヌの受難2ー短篇-


「掃除に明け暮れて、団長のお世話は皆無です。執務室に入ろうとしても、スパイ扱いされて追い出されてしまうわ。いえ、命の危機を感じるかも……」

 鬼神の団長に剣を向けられたのだ。

 幼馴染みのシルディーヌでさえ恐ろしかったのだから、ご令嬢のヘンリエッタでは腰を抜かしてしまうだろう。泡を吹いて失神することもあり得る。

「そっ、それは、本当ですの?」

「ええ、むさくるしい男性ばかりの宮殿は、臭いも汚れも酷いんです。特に今は食堂が危険だわ。害虫がウヨウヨしているかも……あなたが代わってくださるなら、とても嬉しいけれど」

 アルフレッドのいない隙にサクッと交代することもできようが、帰国してきた彼の怒りの形相が思いやられる。

 シルディーヌと喧嘩しただけで、宮殿の空気が暗黒に染まりかけたのだ。いなくなったら、どうなるのだろう。見てみたい気もするが、フリードやアクトラスが真っ青になるのは気の毒だ。

「多分無理だと思います……」

 団員たちが片づけを徹底しても、きっと完璧にはできないだろう。シルディーヌはアルフレッド帰還後の食堂清掃を思いやり、遠い目をした。