「誰か、その人を捕まえて!」

 中年のご婦人方が必死に追いかけているのは、ついさっき駆け抜けていった男性だ。

「あ、アルフ、捕まえてあげてっ」

「ふん、ならば、壁掛けを使うぞ」

「え、いいわ?」

 シルディーヌが了承した刹那にアルフレッドは冠を取り、走っていく男性に向けてヒュンッと投げた。

 シュルシュルと回りながら飛んでいった冠は、男性の足に引っかかって両足をもつれさせ、ステンっと転んでしまった。

 そこを、周りにいた人たちが取り押さえに走り、よってたかって身動きできないようにしている。

「すごいわ、アルフ」

「いくぞ。このあとは、警備に任せればいい」

「ええ、今日は休日だものね」

 アルフレッドの腕に捕まってみんなの元に戻ると、二つのカップルは話がはずんでいるように見えた。ボートで話をしたから、打ち解けられたのかもしれない。

 シルディーヌの目論見はとりあえず成功したようである。

 お弁当を食べたシルディーヌたちは、夕刻になる前に湖を出発した。

 アルフレッドの逞しい腕に支えられていると安心感が半端じゃなく、シルディーヌはどうにも眠気が襲ってきてしまう。