チュッとあたった唇がやけに熱く感じるのは、アルフレッドの体温のせいか。それとも初めて自分からする行為だからか。

「あの、キスを避けたお詫び、なの」

 微動もしないアルフレッドにささやくように言うと、彼は呆けたように姿勢を元に戻し、ついで口を手のひらで押さえた。

 ふいっと横を向いた頬が少し赤く見える。

「ヤバイな。湖に飛び込みたくなる」

「えっ、それはダメよ、アルフ」

「……冗談だ。そろそろ陸に戻るぞ」

「うん」

 ボートから降りてみんなの元に戻るべく歩いていると、男性がシルディーヌの脇を掠めるように疾走していった。

 その風圧でよろけたシルディーヌは、アルフレッドの腕にしっかりと支えられた。

「ありがとう」

「まったく、お前はどこに行っても、飛ぶか転ぶかするな。目が離せん。まあ、今日は湖に落ちなかっただけマシってとこか」

 クッと笑みを零したアルフレッドを見て、シルディーヌはなにも言えなかった。だって、普通に笑う彼はとても貴重なのだ。ずっと見ていたいと思うほどに。

 そんなシルディーヌの気持ちを壊すかのように、背後から女性の叫び声がしてきた。

「ドロボーっ」