ボートの縁を持って少し水面を覗き込むシルディーヌを見て、アルフレッドが焦った声を出す。

「分かった。分かったから、はしゃいで身を乗り出すな。落ちるぞ」

「分かってるわ。もうお子さまじゃない、淑女ですもの」

「どうだかな。淑女は恋人からのキスを遮って、壁飾りを頭に乗っけるようないたずらはしないぞ」

 シルディーヌは「う……」と声を詰まらせた。日頃のお返しとはいえ、少しお子さまっぽかったかもしれない。

 でもアルフレッドはとても素直に冠を被ったままでいてくれる。なんだかんだ文句を言っても言う通りにしてくれるのだ。

 シルディーヌは周りをきょろきょろと見回してみた。湖の上にボートがいくつか出ているけれど、全部離れたところにいる。

「アルフ、ちょっと耳を貸して?」

「なんだ、また妙なことを企んでるのか」

「ちがうわ。私がそっちに行ったらボートが傾いてしまうでしょ。だから、お顔をこっちに寄せてほしいの」

 怪訝そうにしながらも、アルフレッドはシルディーヌのほうに身を乗り出してくる。顔がうんと近づいたとき、シルディーヌは彼の頬に唇を寄せた。