ふと思い出して奈々が問う。

「祐吾さん、海外出張ってニューヨークなんでしょ?」

「ああ」

「当たり屋がいるから気をつけてね。ぶつかってきてメガネ壊れたから弁償しろって言ってくるの。すごく怖いんだから」

「ああ、よく知ってるな」

「だって二年前に旅行で行った時、当たり屋に絡まれたんだもの」

「へぇ、それでどうしたんだ?」

「通りすがりの男性が助けてくれたの。私たちのこともちゃんと叱ってくれて、その後楽しく観光することができたんだ。だから祐吾さんも気をつけてね」

「ふーん。通りすがりの男性、ね」

祐吾は何かを考えるようにそっけなく返事をする。

「あれ?もしかしてヤキモチ妬いてる……とか?」

「ああ、そんな運命的な出会いに妬けるな」

「別に運命でもなんでもないでしょう?だって初めて会う人だしその後も会ってないし」

きょとんとする奈々に祐吾はクックと小さく笑った。

「その男性は運命感じてるだろうな」

「ん?どういうこと?」

「はは、奈々は分からなくていい」

祐吾はガシガシと奈々の頭を撫でた。
祐吾はずっと奈々に既視感を覚えていた。それは奈々のことが好きだからそう思えるのだと自分を納得させていたが、そうではない。二年前、奈々が朋子と旅行でニューヨークを訪れた際、当たり屋に絡まれているところを助けたのは他でもない、祐吾だったのだ。

そのことに一人気付いた祐吾は、奈々との運命に改めて感動を覚えたのだった。