残っている修正伝票はあと数件ではあったが、倉瀬の不器用な優しさに奈々は人知れず苦笑する。

(なんだ、優しいところもあるのね)

ほんのり心があたたかくなり、奈々も気合いを入れて残りの作業に取り組んだ。

二人で分担したため、修正作業はその後三十分程で完了した。経理部門に一言連絡を入れ、ようやく一息つく。

「ふう」

奈々は座ったままうーんと背伸びをした。
思わぬ残業になってしまったが、倉瀬の優しい部分もかいまみえて何だか心がふわふわしている。

お礼を言わなくてはと席を立とうとしたところ、トンっと目の前にイチゴミルクと書かれたピンクの可愛らしい紙パックジュースが置かれ、奈々はすぐに視線を上げる。そこにはなぜだか仏頂面の倉瀬が立っていて、奈々は訳がわからず首を傾げた。

「えっと……」

「これからはちゃんとまわりを頼れよ」

ツンとした態度ながら倉瀬の優しさが滲み出ている気がして、奈々は胸がじんとした。

「飲めよ」

「あ、はい」

差し出されたイチゴミルクを両手で受け取りながら倉瀬をまじまじと見てしまう。この可愛らしいパッケージのイチゴミルクをぶっきらぼうな倉瀬が買ってきたのだと思うと、あまりにも似合わなくて奈々は思わず笑ってしまう。

「なんだ?」

「いいえ。ありがたくいただきますね」

奈々がニッコリ微笑むと、倉瀬は不満気ながら目で頷いた。