天国に咲く花

デート中、手を繋いでいたらコソコソと話し声が聞こえた。

「何あれ……」

「男同士で手を繋ぐって…………何?」

話している人達は女子二人組。年齢は俺たちとそう変わらない。20代の若者なのにどうしてこうも考えが変わるのだろうか。

「女子だって手を繋いでるくせに……」

ふと隣で廉が呟いた。俺は少しだけ驚く。まさか女子と仲良しの廉がそんなことを言うなんて思ってもみなかったからだ。

「行こ、司くん!」

「あ、あぁ……」

そのまま廉は少し怒った風に俺の手を引っ張った。

あんな女子の言葉、俺が気にする必要なんてないのだ。それでも少しだけ気になってしまう。まだ世間は同性カップルを嫌がることに。

「司くん」

ふと深海魚コーナーの所で廉が俺の名を呼んだ。

「ん?」

俺はいつも通り返事をする。彼は振り返って言う。

「僕は周りに何を言われても司くんが大好きだからね」

真顔で言う姿に俺は笑ってしまいそうになった。小さい子供を連れた家族が多い水族館で場違いなことを恥ずかしげもなく堂々と言ってしまう彼に俺はやっぱり叶わないなと思ってしまう。どう足掻いても彼には勝てない。この気持ちに抗うことは出来ないことを思い知った。

「俺も廉のことが大好きだ」

だから俺もそれ相応の気持ちを、言葉を返す。昔は同じ気持ちじゃないのだと諦めて言えなかった言葉を、今は恥ずかしい気持ちも少しだけあるけれど幸せを噛みしめるかのように彼に伝えることが出来る。その幸せに俺は気を失ってしまいそうだった。

深海魚コーナーを回った後はカフェエリアに向かう。そこで昼食を取り、午後は買い物だ。

さて廉に何を買ってあげようか。彼の好きな物を全く知らない訳では無いけれど、的はずれな物を選んでしまっては彼氏として失格な気がする。

カフェエリアに到着して店内に入る。水族館らしく青っぽい外装に内装だった。

「いらっしゃいませ〜」

女性の声がする。レジにいた店員の声だった。その後すぐに他の店員の声が聞こえた。気持ちの良い声で、ここで食事をするのは楽しそうだなと思った。

「何名様ですか?」

目の前に茶髪のポニーテール姿の女性定員が現れ話しかけてきた。

「二名です」

俺はそう答え、店員に案内されるがまま席に着いた。

店員は立ち去り、俺らは机の上にあったメニュー表を手に取り二人で眺める。

「どれにする〜?」

「とりあえず珈琲を飲みたい」

「好きだね、珈琲」

「ブラックが一番、美味しいんだよ」

「そっか!」

そう言って微笑む彼に対して可愛いなと思いながら、ただただ彼を見つめていた。

「そんなに見つめられると恥ずかしい」

ふとメニュー表を見ながら廉は言う。

「あ、ごめん……」

素直に謝ってみると、彼は微笑んで「何食べる?」と聞いてきた。まるで気にしていないかのように。

俺も気にするのも悪いと思い、廉と一緒にメニュー表を覗いた。

水族館らしいメニューが載っており、どれも美味しそうだった。サンドイッチやバーガー、オムライスにキッズメニュー、それからアイスにかき氷、パスタや飲み物、ホットドッグ、おにぎり……などなど、どれを選んでも楽しそうだなと思えるメニュー表だった。

「ホットドッグ食べたい」

「わかった。僕は何にしようかな……」

そう言って、まだメニュー表を見ていた。

「サンドイッチも美味しそうだし、パスタも美味しそう。この、たまごサンドも美味しそうじゃない? あとね……」

そう言う彼は本当に幸せそうにメニューを見ていた。だから俺はこう提案する。

「食べたいの二つ選んで俺が片方、注文しようか?」

「……え?」

メニュー表を見ていた廉は、顔を上げて俺の目をまっすぐに見る。驚いたように、少しだけ目を見開いて。その姿が可愛く、だけど少しおかしく思えて笑みがこぼれてしまう。

「そんなに驚かなくても」

笑いながら言うと廉は恥ずかしそうに下を向いて謝る。

「ごめん……! だけどビックリしちゃって……」

「そんなに驚くことでもないと思うけどな。まぁいいさ、何食べたい?」

「え、あ……パスタ……と、たまごサンド……」

「おっけ」

たまたま通り掛かって女性店員に話しかける。彼女は微笑んで注文を聞いてくれた。

「ご注文は以上でよろしいですか?」

「はい」

「では、確認させていただきます。ミートパスタがおひとつ。たまごサンドがおひとつ。以上でよろしいでしょうか?」

「大丈夫です」

「かしこまりました。少々、お待ちください」

そう言ってペコリを頭を下げて女性店員は立ち去って行く。