天国に咲く花

さて、女性スタッフが男の子を抱き上げ俺から離してくれた。だが俺と離れてしまい男の子がまた泣いてしまう。仕方がないので代わりに抱っこすることにした。

「司くんの子みたい……」

ふとそんなことを廉が呟いた。俺は驚いて何も言えなかった。

「あ、いや……ごめん…………なんでもない!」

必死に誤魔化そうとする廉だが聞こえてしまっているので謝られたりしても、どう対応したらいいのかわからなかった。

「デートですか?」

そんな時、女性スタッフが話しかけてきてくれた。しかも真っ先に“デート”なんて単語が出てくるほど俺たちは恋人に見えたのだろうか。

「……はい」

照れながらも頷いてみた。こんな時に嘘をつく必要ないし、頷いたことにより実感出来てより一層嬉しく思えた。

「そうなんですね! 幸せですか?」

「はい……」

優しい彼と付き合えることは幸せなことで楽しいことで、これからもこの関係が続くことを願ってしまう。叶うならば彼と一生、幸せでありますように。

「誰かを心から愛せるって素晴らしいです」

「……そうですね」

女性スタッフが何を思い何を感じ、そのことを俺に伝えてくれたのはわからない。ただ一つだけわかったことは彼女がどこか遠いところを見ていたことである。

「わたしは誰かを愛せませんでした」

なんか一人でに話し始めた。

腕の中で男の子はすやすやと眠っている。俺に抱っこされて安心したのからわからないが静かなのでありがたい。だが廉とのデートを邪魔したことに関しては許してはない。大人も子供も男も女も、みな平等でなければならないのだから。

「人を“好き”になるってなんでしょう」

唐突たる哲学。もはやそれは質問ではなく個人で見つけ個人で解決するしか方法のない話。他人である俺が口出しするようなことではないけれど、ただ言いたいことを言おうと思った。

「……愛せなくても好きになれなくてもいいんだと思います。だって本来、誰かを愛してしまったらその気持ちは忘れないものだと思うから。初恋ってそういうものじゃないですか」

美しい恋愛も。醜い欲望も。味わってみたい青春も。誰かを愛する気持ちも、愛される気持ちも。忘れられない初恋も。そうやって何かを悩む気持ちも。

「あなたはきっと美しい女性なのでしょう。俺は心から愛した彼と幸せになれただけで満足してしまうような人です」

欲など、とうに捨てた。もう今は心から純粋に彼の隣にいることだけが目標だ。彼の隣を歩いてて恥じない男になりたい。それから彼の願いならば、どんなことでも受け入れたいと感じる。この気持ちは重いだろうか。

「いいじゃないですか。あなた様が幸せならスタッフ一同、心から感謝致します」

すっかり仕事モードに入ってしまった女性スタッフ。先程までの俺との会話はなんだったのかと思えるほどの営業スマイルで、少し面食らってしまう。だけど少しは彼女の手助けになれただろうか。

「……初対面なのに変な話をしてしまい申し訳ございません。ですが素晴らしいアドバイスを頂いたように感じます。ありがとうございました」

女性スタッフは深々と頭を下げた。そして俺に感謝を述べてくれた。きっと近い将来、いい人が見つかるだろう。同性か異性か。そんなの分からないけれど彼女が少しでも幸せになってくれてたらと思う。

迷子の少年を迷子センターに預け、俺たちはデートを再開した。