「廉!」

俺は歩くのをやめて彼を呼んだ。

「ん? どうしたの?」

彼は驚いた様子で振り返った。綺麗な茶色い瞳で俺の事を真っ直ぐに見る彼に一瞬だけ見入ってしまった。

「好きだ、廉」

「え?」

例え、この恋が実らなかったとしても心から愛したのは廉だけで、これからも廉だけを愛す。それを廉に知っててほしかった。

「どういう……?」

「お前のことが好きだ、大好きだ。もちろん恋愛対象として」

関係が壊れるかもしれない。二度と彼に会えないかもしれない。それでも俺は構わない。本当は嫌だけど。だから言いたくなんてなかったのだけれども。それでも言いたかった。臆病者が少し前を進んだのを誰かに見てもらいたかったのかもしれない。それが廉だったのかもしれない。

そんなわけないのに。


「……それ本当?」

「……あぁ、本当だ」

「そっか〜……」

そう言って廉は俺を見て本当に嬉しそうに微笑んだ。

「ちょ……は? 」

終いには泣いてしまった。でも嬉しそうに笑うのでどうしたらいいのかわからなくなってしまった。

「僕も……司くんのことが大好きだよ。もちろん恋愛対象として」

「…………え!?!?」

どういうことだ? 廉は俺のことが好きだったのか? まさか両想いだったのか?

「両想いだね! 司くん!!」

そう言って彼は涙を流しながら嬉しそうに笑った。心から幸せそうに。まるでもうこれ以上は何も望んでいないかのように。

「これから、よ、よよよよよろしくお願いします……」

「こちらこそ」

そう言って俺たちは付き合うことになった。これから色々な困難に立ち向かうかもしれない。でも二人ならば乗り越えられると信じて。

何億分の一の確率で彼と両思いだった。異性ならば簡単に付き合えると思う。好きだとしても、嫌いだとしても。でも同性って相手を思う気持ちなんて、友達以上の気持ちはない。だから俺が廉と両想いだったのは本当に幸せなことで、奇跡なのかもしれない。

関係が崩れるとか、もう二度と会えなくなるとか、そんなことどうでも良くなるぐらい彼と両想いだったことに俺は嬉しく思った。純粋にただただ彼を愛そうと思った。

でもまだ、彼には「愛してる」とは言えないのかもしれない。その勇気が出るまであと少しかかるかもしれない。それまで彼は待っていてくれるだろうか。

彼ならば笑って待ってくれることを信じよう。何年も一緒にいたのだから。

「廉」

「ん?」

「ありがとう、大好きだ」

「どういたしまして? もちろん僕も大好きだよ」

茜色の空を見上げながら、俺は高校時代に果たせなかった夢を叶えた。ずっと後悔していたことが今ここで消えたんだ。

俺の高校時代の“後悔”は“奇跡”というか“両想い”に変わったのだった。