廉の家に到着して呼び鈴を鳴らした。すぐに声がして鍵が開く音がした。

「やほ〜、司くん。あがってく?」

「……いやちょっと歩かないか?」

廉の家族がいる前に本人に告白するほどさすがに勇気はない。小心者で臆病者で好きな人にも告白できないような俺に、好きな人の家族の前で本人に告白するなんてハードなことできるわけがなかった。

「ん?別にいいよ。ちょっと待ってて、着替えてくる」

「わかった」

そう言って廉は家の中に入って行った。俺はドキドキしながら、己に大丈夫だと言い聞かせた。

振られたとしても彼ならば受け入れてくれることを願って。関係が壊れるなんて知ってる。廉が佐々木さんを好きで、俺の事を友達としか思ってないこともわかっている。

それでも彼に伝えたいと思ったら。
彼を心から愛しているから。

「お待たせ!」

そう言って彼は家から出てきた。相変わらず楽な服装だけれど、廉が着ると可愛く見えた。これはあれだな、眼科にでも行こうかな。



歩くと言ってもどこまで歩くかわからず、とりあえず二人で街をぶらぶらした。

高校時代から何も変わらない景色に二人で懐かしい思い出話をしながら、この思い出も今日で語れなくなるのかもしれないと思うと少しだけ悲しくなった。けれどその気持ちに蓋をして、俺は決めた。

彼に振り向いてもらえないとわかっていても。
彼が俺の事をどうも思っていなくても。
俺は彼のことを心から愛しているから。

“愛”だなんて錯覚じみたもの、本当は信じていなかった。けれど廉を好きになって、心から愛してしまって、彼を忘れることなんてできなかった。

たまに初恋は誰だ、と会話することがある人がいると思う。大抵の人は誰か覚えていたりして、たまに覚えてない人がいたりすると思う。

俺の初恋は夢咲 廉だ。一度愛してしまったんだ、好きになってしまったんだ。廉を忘れるなんて俺にはできなかった──