翌日、カフェに行くと佐々木さんがいた。待ち合わせ時間よりも少し早く来たにも関わらず、彼女は俺よりも早く来ていたことに驚いた。それほど俺に伝えたいことでもあったのだろうか。

「来てくれてありがとうございます」

本当は来たくなかったのだけれど。それでも仕方なく来てしまった。理由はわからないけれど。ほとんど無意識だったようにも思う。実際のところはわからない。

「お話ってなんですか?」

どうせ最後なのだから。今日は遠慮なく彼女の話を聞こうと思った。言いたいことが言えるかどうかはわからないけれど。

「……この臆病者!」

「え!?」

急に怒られてしまった。佐々木さんが大きな声を出したせいで周りの人かは注目を浴びてしまった。少し恥ずかしいようにも思うけれど、なぜかそんな事よりも彼女に反抗する気持ちの方が勝っていた。

「な、なぜ貴女にそんなこと言われなきゃならないんですか!」

「なんでですって……? あなたが臆病者だからです!」

佐々木さんは俺の目を真っ直ぐ見て言った。嘘偽りのない本心を。

「好きなら好きって言ってください。私が諦められないじゃないですか!」

彼女は耐えられなかったりしたのだろうか。なにか我慢することがあったのだろうか。

「好きなら好きと彼に言って。でなければいつか後悔します。あなたは悔いなき人生を歩みたいとは思わないのですか?」

それでも俺には恐怖の方が勝ってしまうんだ。もしかしたら廉に嫌われるかもしれない恐怖の方が。

「後悔しても遅いです。私を振るのに彼には告らないなんて意味がわからない。私はあなたと付き合えることになったら彼と別れるつもりだったんです。好きな人と両想いになりたいと思うことはいけないことですか? 幸せになりたいと、隣にずっといたいと思うのはいけないことですか?」

「いけなくなんて……!」

佐々木さんはいつから立ち上がり、俺に言った。まるで己に言い聞かせるようにして。

「私は何をどう足掻いたってあなたが好きなんです。願わくば両想いになって付き合いたいんです……でもあなたには好きな人がいる。それは私じゃない。わかってます、知ってます。それでも私は諦めるつもりなんてありませんから。だから早く好きな人と結ばれて」

彼女は俺のことを諦めたいとでも思っているのだろうか。俺が鈍いがあまりに彼女に迷惑でもかけたのだろうか。彼女は幸せになれるだろうか。

「佐々木さん! 俺とは別の人を好きになって幸せになってください!」

そう言って俺はお金を机に置いて立ち上がり、カフェを出た。

好きな人に会いに行くために。