佐々木さんに告白されてから、俺はどこか上の空だった。

そりゃ当たり前か。廉と付き合ってたはずなのに、俺に好意を寄せてきたんだから。まさか俺を好きになるなんて思ってなかったからな。人とはよくわからない生き物だと思った。


仕事終わり、家に帰ると、母がキッチンのところに立って料理をしていた。懐かしい光景に、俺は少しだけ嬉しく思った。

いずれか、この光景が見れなくなった時、俺はどうするのだろうか。

「ただいま」

「あら、帰ってたのね。お帰りなさい」

俺の存在に気がついた母は微笑みながら俺に話しかけた。

「まだ元気になってないのに大丈夫か?」

「大丈夫よ!そんなにやわじゃないわよ」

「そうか……」

ならいい。笑顔でいてくれればそれでいい、と心から俺は思った。

「親父は?」

「まだ仕事じゃない?」

「もう七時だぞ?」

「そういう仕事もあるわよ」

「そーゆーもんか……」

確かに、俺も七時まで仕事していたわけだしおかしくは無いのかもしれない。それに定年退職したわけじゃないのだから、仕事が遅くてもおかしくはないのか。

「ご飯、先に食べよ」

「じゃあ着替えてくる」

「いってらしゃ~い」

母に見送られ、俺は自分の部屋に戻った。