数日後。俺は帰ることにした。実家に今まで過ごしていたので、一人暮らしをしているマンションまで帰るのだ。

その前に廉に連絡することにした。本当なら連絡する気なんてないが、友達として連絡することにした。

電話にしようか、メールにしようか迷う。こんなしょうもないことで迷う時間なんてないのに。

明日には旅立つ。荷物もまとめた。好きな人に連絡するなんて久しぶりで何も考えてなかった。

昔は簡単に話しかけられたのに。

「アンタ、まだ廉くんに連絡してなかったの? 早くしなさいよ」

母にそう言われ、俺は無意識に聞いてしまった。

「なぁお袋。電話とメール、どっちがいいと思う?」

聞いて後悔した。何を聞いているんだろうか。こんなことを親に聞いてどうしろと言うのだ。

「アンタの好きなようにしなさい。声が聞きたいなら電話すればいいじゃないの。どっちにしても廉くんは嬉しがってくれるわよ」

さすが母親だ。子供のことをよく見ている。

数分悩んだ末、電話にすることにした。お袋が言ったように、声が聞きたかった。当分、聞くことなんてないからな。最後に聞いて問題はないだろう。

スマホの電源をオンにして、パスワードを入力する。ホーム画面には、高校時代の俺と廉がツーショットで写っていた。ロック画面はただの風景画だけど。

電話のアイコンを押して、廉の電話番号を探す。ずっと電話なんてしてなかった。最後に電話をしたのはいつだろうか。

やっと廉の電話番号を見つけ、通話ボタンを押した。

プルルル…プルルル……

廉が電話に出るまですごく緊張した。なんで電話したのか、と聞かれたらなんて答えよう。言い訳なんて思いつかないな。

「…はい」

「あっ…! 廉か?」

ああ、本当に緊張する。電話なんて久しぶりだ。

大学の友人とは連絡することがあっても、高校時代の友人には連絡する機会なんてなかった。

「司くん…? どうしたの?」

廉の声が聞こえて、なんて応えればいいのかわからなくなった。

「司くん………?」

心配した廉の声が聞こえる。電話越しだと、少しだけ廉の声が高く聞こえた。それでも女の声よりかは低い。

ああ、俺は本当に廉のことが好きなんだな。そう思えて嬉しくなる。廉に彼女がいるのを忘れるくらいに──

「明日……帰るんだ。それを伝えようと思って………だ、大事なことは電話した方がいいかな……って思って……」

物凄く話しにくい。対面した時は話しやすいのに、なぜ今はスムーズに話すことができないのだろうか。

緊張って大変だな……

「……そっか…! わかった! また帰ってくる時は連絡してね!」

妙に声を弾ませて言うので、俺は不思議に思いながらも電話を切った。

本当はもう少し話していたかったんだけどな。