俺は七時頃に家を出た。犬の散歩である。

なぜか俺には懐かない犬だが、母に頼まれたので、仕方なく世話をさせられている。

母が言うには『暇なら動け』とのことらしい。

へいへい、って感じだ。


母が言っていたいつもの散歩コースを歩く。すると前から青年が歩いて来るのが見えた。

すぐに避け、犬が歩くペースに合わせて俺は歩いた。

この犬の名前、なんだっけ。

「………あ、司(つかさ)くん」

「え…………？」

犬の名前を思い出しながら歩いていると、先程見かけた青年が俺の名前を呼んだ。

知らない人なはずなのに、なぜ彼は俺の名前を知っているのだろうか。

疑問に思いながらも俺は返事をした。

「なんですか……？」

「…あれ？ もしかして覚えてない……？」

そう言って青年は微笑んだ。

あれ…？ この微笑んだ顔、どこかで見たことあるような………

「思い出せない？」

少し残念そうに青年は聞いてきた。

なんか、その姿が懐かしく見えた。

前にもこんなに感じでわかりやすく残念がる幼なじみがいたっけ。

「………あ！」

幼なじみで思い出した。

俺の目の前にいる青年は、昔と印象が変わっていても笑顔や性格は変わっていないみたいだった。

「廉(れん)！」

「やっと思い出してくれた？」

俺が思い出すと、青年は嬉しそうに笑った。