「あははっやっと話し掛けてくれたと思って!」
「・・・へ?」


僕は身体を硬直させる。今彼女は何と言った?“やっと”話し掛けてくれたと思ってと言った。まさかまさかと想像にもしてなかった状況を収拾する前に、すずちゃんはまた口を開く。


「君が全然話し掛けてくれないから私からいっちゃうところだったよ」
「・・・え、」
「私でよければ仲良くして下さい。月島律くん」
「な、名前、」
「そりゃあ名前くらい知ってるよ。月島くん、女の子から大人気だもんね」


わざわざ聞かなくてもきっとそうなのだろう。

つまり、すずちゃんは全部知っていたのだ。

僕がずっと彼女を目で追っていたことも、毎日のように話し掛けようとタイミングを図っていたことも。

恥ずかしくて顔から火が吹きそうだが、幸い生まれつき表情筋が乏しいもので見た目は変わらないはず。しかしそんな僕も自分の名前を呼んでくれたことが嬉しくて口角が上がっていくのが分かった。


「・・・えっと、その、よろしく、日高さん」
「よろしくね、月島くん」


僕は長年掲げてきた“すずちゃんと友達になる”夢が、今、この瞬間叶ったのだ。