「・・・もしかして中、見ちゃった?」
「あ・・・ごめん、少しだけ」
「謝らなくてもいいよ。すっごい字、汚かったでしょ?」
「そんなことないよ」
「え〜うっそだぁ。自分でも時々読めないことあるのに」


すずちゃんと今、話している。ずっと遠くから見てきた彼女と会話をしている。非現実的すぎて逆に夢じゃないかと思った。

こっそり両手を後ろに回して手の甲を抓ってみる。痛かったから夢じゃないらしい。じゃあやっぱり現実?!と心の中で自問自答を繰り返す僕は随分余裕がない。もっと気の利いたことを言えばいいのに、情けないことにしどろもどろ状態だった。


「でも本当にありがとう。クラスの子に見られてたらちょっと恥ずかしかったかも」
「かわ」
「かわ?」
「いや、えぇっと、」

思わず可愛いと言葉が溢れそうになった。

危ない。危ない。知り合って間もなくドン引きされるところだった。さすがに初対面で可愛いはアウトだ。僕はナンパをしにきたチャラ男ではない。



「日高さん、」


しかし知り合いになれたことは喜ばしいことだが、やはり欲は出てくるもの。

もっと一緒にいて仲良くなりたいと、そんな思いが募っていく。今まで嫌われないようにと慎重になっていた僕だが、こんな絶好の機会は無いと腹を括った。