普通ならお見合いをして、お付き合いをするのかもしれない。でも、早く法律で縛られる関係になりたかった。結婚してしまえば、彼女は完全に俺のものになる。そんな思いから、婚約の話を持ちかけた。

娘の結婚相手を探していた彼女の父親は、俺の言葉にとても喜んでいた。多分、俺が志麻グループの次男という立場というのもあると思うけどな。

「氷室紫帆……」

彼女の写真を眺めながら、彼女に会った時のことを考える。彼女はあのパーティーで一度も笑っていなかった。笑った顔もきっととても綺麗なんだろう。

結婚式はどんなものがいいんだろうか?新婚旅行はどこに行きたいんだろう?彼女と一緒に決めていく喜びに浸りながら彼女と会う予定の日を迎えたのだが、彼女は俺の前に現れなかった。

「暁人くん、申し訳ない!紫帆が逃げてしまったみたいで……」

彼女の父親に何度も頭を下げられた。彼女は住んでいた部屋を引き払い、遠くへ逃げてしまったのだ。会社の人はどこに行ったのか知らないと言う。俺はショックを受け、その場に座り込んでしまった。