(めんどくさい……帰りたい……)

笑顔を貼り付けつつ、心の中で何度も呟く。ご令嬢たちは俺の内側など知らず、「趣味は何ですか?」と質問してくる。疲れる……。

「飲み物、貰ってきます」

取り囲んでくるご令嬢たちにそう言い、その場を離れる。もう壁際でジッとしていた方がいいのかもしれない。そう思いながら壁の方に目を向けると、頬に熱が集まった。

壁際に立ち、つまらなさそうにしている青いドレス姿の女性がいる。頰を赤く染めた御曹司が声をかけても、感情のない返事で相手にしていない。その姿を見た瞬間、この人と結婚すべきだと思った。所謂一目惚れというやつだ。

家に帰ってから、あの女性のことを必死で調べた。名前は氷室紫帆(ひむろしほ)。俺と同い年で、氷室グループの一人娘。グループの跡継ぎがほしい父親は、お見合いなどをさせているが彼女に結婚の意思はなく、婚約者どころか恋人もいない。

一目惚れした相手に恋人がいなくてよかった、そう思いながら俺は氷室社長に連絡を取る。社長に言ったのは、「娘さんと結婚したい」という言葉だった。