それは、運命の出会いだった。ほんの一瞬の出来事だけど、まるで素晴らしい映画を見た後のような満たされて、触れたくて、不思議な気持ちになった。

俺の名前は志麻暁人(しまあきと)。家はいくつもの会社を経営する志麻グループで、俺は家柄に相応しい人間になるよう幼い頃から徹底的に教育されてきた。でも、俺は次男で志麻グループの社長は兄さんが継ぐことが決まっている。だから、俺は他のグループの社長になるしかないんだ。

「ぜひ、うちの娘と会ってもらいたいね」

グループを継いでほしい人に何人か声をかけられ、お見合いをすることも少なくない。でも、こういう世界にいるお嬢様って自分一人じゃ何もできなくて、ただ着飾られただけのお人形に見えて、結婚したいとかいう気持ちは起きなかった。あの日までは。

あるパーティーに参加することになり、俺は普段より豪華なスーツを着てホールにいた。独身で恋人もいないから、ドレスや宝石で着飾ったご令嬢に甘ったるい声で話しかけられ、適当に話して逃げる。結婚したいとか、そんな気持ちはどんな女性を見ても沸いてこない。